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ナオトがはらった不倫の代償とは《後編》 〜マダム・リリーのお悩み相談サロン【Case.6】〜

蔦に覆われたポスト

『ナオトがはらった不倫の代償とは《前編》 〜マダム・リリーのお悩み相談サロン【Case.6】〜』で、軽い気持ちではじめた不倫関係が、だんだん泥沼にはまっていったことを語ったナオト。

この不倫の顛末とは? そして、マダム・リリーはナオトに何を伝えるのでしょうか?

ナオト(41歳)のお悩み相談3 こんなことになるなんて……

リリー「で、その後はどんなことになったの? 気になるから早く教えてよ!」

ナオト「はい。それで、もう僕は本当に恐怖で、身動きも取れなくなり、自分の体調と精神状態もどんどんおかしくなりました。どうやって彼女から逃げるか、そればかり考えていました。そしてとうとう、警察に相談に行きました。連れてこないと話にならないと言われたので、嫌がる彼女を無理やり引っ張って警察に突き出したんです……。

そのあとは本当に壮絶でした。彼女はずっと、「僕に会わせて」と泣き叫び続けたそうです。これ以降は弁護士を間に挟み、直接連絡を取ったり、会いに行ったり、プライベートを暴露するようなことをしたら、ストーカー規制法が適用されると彼女に警告しました。

彼女は、そのあとも何度も連絡を取ろうとしたようですが、こちら側は完全に拒否して、弁護士を通してもらうよう伝えていました。すると、ツイッターで専用のアカウントを作って、実名で僕に呼びかけはじめたんです。こんなことになっても、相変わらず「僕に会いたい、やり直したい」と思ってるようでした。

それも無視していると、彼女はとうとう例のブログを公開したんです。もうあっという間に拡散されて。僕はこの手の仕事の専門なので、火消しも相当頑張ったんですが、まったく追いつきませんでした。なまじっかネットの世界で有名だっただけに、僕への批判は相当なものでしたよ。

また、彼女がかなりの文才の持ち主で、そのブログが読み応えがあってすごく面白いんですよ。もっとバカな子だったらコントロールできたかもしれないけど、彼女は賢かったんですよね……。そこに惹かれたのもあるけど、こうなるとそれがアダになりました。

ネットですごい騒ぎになってしまったので、僕も釈明というか、妻と彼女への謝罪の声明を出して、彼女の要求どおり一千万円を支払う用意もある旨も伝えたんですが、ますます批判の的でしたね。

妻は、この件で精神を崩して寝込んでしまっています。僕ももうボロボロですが、彼女は今やちょっとしたカリスマみたいになっていて、相変わらずブログやツイッターで見ている人たちとやり取りしながら、いろんな事を書き綴っています。はじめのブログでは、すべて終わったら自殺するようなことも書いてありましたが、今のところそんな様子はなさそうですね。

僕はこれからどうなるんでしょうか。もうどうしたらいいかわかりません。あ、ちなみにこれが彼女が書いたブログと僕の謝罪文です。長いですけど、よかったら読んでみてください。」

マダム・リリーがナオトに伝えたいことは?

赤い糸が切れる

リリー「思った以上にヘビーな話だったわね……。私も不倫されたことあるけど、今の時代はこういう制裁の仕方があるわけね。とりあえず、ちょっとブログを読んでみるから待っててちょうだい。

……なるほど。確かにこれ面白いわ。あなたには酷な話だけど、読み物としてとても秀逸だわ。捨て身ですべてをさらけ出したインパクトって半端ないわね。これは、皆が食いついて支持するのもわかるわ。

彼女、ここまでさらけ出す覚悟と、これだけの文才があるなら、作家にでもなればいいのに。この才能をこんなことに使って、あなたみたいなつまらない男のために、このまま人生を棒に振ったらもったいないわね。もしもどこかで何か伝えることがあったら、作家になりなさいって言っておいて! 自分でツイッターにコメントしようかしら。ふふ。

この子に比べて、あなたの謝罪の声明は本当につまらないわね。もちろん、あなたには守るべきものや立場があるから、こうなるのはわかるけど。でもこれじゃ結局、保身に走ってるって批判されても仕方ないわよ。なんていうか、あなた自身の真から出た言葉で、奥さんや彼女に対して心から謝罪してるって感じがしないのよ。

わざわざ、要求どおり一千万円を支払う用意があると書いたり、さりげなく彼女の嘘や妄想が多分に入っていることをにおわせたり。本当にその通りなのかもしれないけど、明らかに世間に対して体裁を保つための声明文よね。まるで企業の謝罪みたい。そんな小手先のテクニックはすぐに皆見破ってしまうわよ。彼女のブログが真に迫ってるだけにね。

さっき話を聞いていて思ったのだけど、結局あなたは、こうなった今でも自分の保身を一番に考えているんじゃない? もちろん、自分が悪かった、彼女や妻に悪い事をしたって思いもあるでしょうけど、「不倫なんてよくある事なのに、自分は運が悪かった、やっかいな女にあたってしまった」ってどこかで思ってない? 

彼女の妊娠中絶が本当だとしたら、一生ぬぐえない心の傷をつけたことは確かよ。もちろん彼女も望んでいたのだから、あなただけが悪いわけじゃない。でも、奥さんは? 幸せに暮らしていたのに、あなたの出来心のせいで、心が壊れてしまったかもしれない。一生苦しむかもしれない。

確かに、ここまでの制裁をされることはなかなかないでしょうし、せっかくこれまでコツコツと築き上げてきた社会的評価も地に落ちて、気の毒だとは思うわ。あなたのことを若い娘を騙しておとしめた極悪非道の鬼畜のように言ってる人もいるみたいだけど、私からしたら、たいした覚悟もなく若い娘に手を出して、泥沼になったあげくに制裁された哀れな小物って印象よ。

あなたがどれだけすごいエンジニアなのか私にはわからないけど、カリスマとまで言われていたんだから相当のものだったんでしょうね。それが、今回の件で皆に「バカなやつ」って思われるようになって、それこそかなりのイメージダウンよね。

私ね、不倫って、飲酒運転のようなものだと思ってるの。はじめは、「ちょっとくらい大丈夫。バレなきゃ平気」くらいの軽い気持ちでするでしょ。けれど、事故を引き起こして、社会にバレたら、職を失くすかもしれない。ときには、重大な事故を起こして、人を殺す可能性だって十分にあるのよ。

最近も、とある女性芸能人の不倫がきっかけで、旦那さんが自殺していたことが発覚したニュースが話題になったわよね。有名人だから注目されたけど、あれって珍しいことじゃないと思うの。不倫は、人を殺す可能性をはらんでるってことよ。命までなくならなくても、配偶者や不倫相手の心をこわして、他人の人生を変えてしまう可能性があるってことは容易に想像がつくわよね。

出来心がわいたり、ちょっと理性が負けそうなときに、そこまで重いことをしようとしてるってことを皆が考えるようになれば、不倫で不幸になる人は減るのにね。間接的に殺人を犯す可能性があるんだって思えば、さすがに躊躇するわよね。

ちょっとお金を持ってたりすると、愛人がいたり、不倫してても仕方ないみたいに思われがちだけど、いくらお金持ちだとしても、本当の意味で賢明で、本当に家族を愛している人は不倫はしないと私は思うわ。

ごめんなさい。あなたの今の状態に対して、解決できるようなアドバイスは思いつかないの。でも、自分がどれだけひどい目にあったか、どうしたらこれ以上の被害を食い止められるか、彼女とどう戦っていけばいいかってことを考える前に、まず、いかに自分がおろかだったか、周りの人がどんなに追い込まれてどんな心情だったか、謝罪の気持ちを表すために自分に何ができるのか、心の底から考えて、真摯に向き合うことからはじめたらどうかしら?

あなたは、ちょっとずるくて優柔不断だけど、悪人ではないと私は思う。だから、心からの誠意を示すこともきっとできると思うわ。綺麗ごとかもしれないけど、心の底から本気で湧き出た言葉は、相手にも周囲にも伝わるものよ。そうしたら、少しずつ状況も変わっていくかもしれないわね。」

ナオト「……はい。そうですよね。自分のずるい部分を、皆に見透かされているんだと思いました。もう一度、一から真摯に向き合って、考え続けます。ありがとうございます。マダム・リリー……。」

そう言って、サロンをあとにしたナオト。来たときのままの青ざめた顔には涙が溢れ、顔を覆った手の中からは嗚咽が漏れている。

文:つかまい子

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