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自炊という難題を捨て、つけ麺屋で精神のバランスを保つ |藤原麻里菜の一人暮らし大地獄#04

2017/12/18

藤原麻里菜のひとりぐらし大地獄4

よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属しながら、YouTubeで「無駄づくり」チャンネルを運営し、自作の面白い工作や発明の動画投稿が人気の藤原麻里菜さん。
本シリーズでは初めて一人暮らしをスタートした際のボロアパートで起こった面白エピソードを語って頂きます。(いえーる すみかる編集部)

料理ができない

一人暮らしを始めて、まず困ったのが料理だ。
生まれ持って不器用だった私は、自然と料理を避けていた。

料理に関連する一番思い出深い記憶は、中学生のときに家族に創作料理を振る舞ったことだ。
料理の基本も分からないのに、なぜか創作料理を振る舞ったのだ。
いや、「振る舞った」という言い方はよくない。

「食卓をジャックした」という表現の方が正しいかもしれない。

メニューは具体的に覚えていないが、プチトマトの中をくり抜いてスープを入れたことだけ鮮明に思い出せる。
意味不明だ。出された家族は、もう2度と私に料理を作らせることなどなかった。

自炊の買い物はたのしい

しかし、一人暮らしを始めたら自炊をしなければならない。
お金がないから尚更のことだ。

近所にあったスーパーに行き、カートを押しながらぐるりと見て回った。
野菜コーナーで立ち止まるのは初めてかもしれない。
見たことのない野菜がたくさんあって面白い。
パック詰めされた精肉も見ていると楽しい。
こんなに肉の種類があるのかと発見になる。
生の魚もおもしろい。
レシピサイトを見ながら、「あれもつくろう」「これもつくろう」と次々にカートに入れていった。

創作料理を作った中学生のときと比べて、時代はインターネットによって大いに進化していった。
主婦の知恵がレシピサイトに集結し、「むしろ不味く料理を作るほうが難しい」という時代が到来したのだ。
ありがとう、エンジニアたち。

その恩恵を私も受けた。
個性を見せることなく、書かれていることを守って料理を作れば、美味しい料理になるのだ。
自分の個性を見せたがるのは我々世代の悪い癖だ。
しかし、自炊の難しいところは味ではない。「計画性」なのだ。

冷蔵庫は万能じゃなかった

一人暮らし初日に行ったスーパーにテンションが上がったのか、少々買いすぎた。
野菜と肉と魚と卵とパンを軸に色々と買っていた。
お腹が減ってスーパーに行ってしまったため、とりあえず今自分が食べたい物を欲望のままにカートにいれたらこうなった。
でも、欲望には逆らえない。輪廻から解脱なんてしなくてもいい。

数日後、冷蔵庫の中で野菜がシナシナになっていた。
冷蔵庫は永久に物を保存できると信じていたのでシナシナになった野菜を見てショックを受けた。
「そういえば……」と思い、一枚だけ食べて放置していた食パンを見てみると、青いカビが生えていた。

初めてカビを見た。
カビって存在したんですね。
ペガサスみたいな存在じゃなかったんだ。
お腹が空いていたので、ブルーベリーパンのようで美味しそうだなと一瞬思った。

つけ麺の道へ行く

カビから受けた精神的ショックは誰にも分からないだろう。
私に自炊は早かった。

諦め、外食をすることにした。
帰り道に有名なつけ麺のお店があったのだが、そこが大盛り無料なのだ。
値段も800円程度でお手頃だ。
自炊を捨てた日から、毎日そこへ通った。

日々、つけ麺店の暖簾をくぐり、大盛りの食券を購入し、カウンターに座り、食券を渡し、つけ麺が来るのを待つ。
つけ麺が自分の前に出されると、誰よりも早く食べる。
自分より先に入店したサラリーマンよりも早く食べ終わることを目標に。

何者にもなれず、自分の思う評価を受けていなかった私は、「サラリーマンよりもつけ麺の大盛りを早く食べる」その優越感だけが生きがいだった。
食べ終わった後に、「ふふ、サラリーマンたちが、びっくりしてらあ」と優越感に浸りながら「ごちそうさまでした」と慣れた手つきで器をカウンターの上に置くことで、生きる喜びを感じていた。

だから私は、毎日そのつけ麺屋に通って、大盛りを誰よりも先に平らげた。
自分の存在を肯定するために。
そして、太った。びっくりするほど、太った。

黄金のレシピの発見

つけ麺の大盛りを誰よりも早く平らげることで、精神のバランスを保っているのはよくないので、自炊を再び始めた。
最初の自炊で失敗した分、計画的に食材を買えるようになった。
また、レシピサイトでいろいろと作って見るうちに、この調味料とこの調味料を組み合わせるとこんな味になるんだなというのが分かってくるようになった。

そこで、私はある黄金の調味料の組み合わせに到達してしまった。
これはもしかしたら世界の触れていけない謎だったのかもしれない。
解いてはいけない方程式だったのかもしれない。
これを人が知ることで、世界の秩序が乱れるかもしれない。
それほど、うまい黄金の組み合わせだ。

それは、

ごま油+オイスターソース+豆板醤+ラー油=うまい。

まず、ごま油で炒めたら何でもうまくなるし、オイスターソースと豆板醤という素材の味を殺しまくる調味料界のシリアルキラーは、うまい。
そして、ラー油は何にかけてもうまくなる。この組み合わせはすごい。

多分、ネジにかけてもボリボリ食べられる。
それくらいうまい組み合わせなのだ。
友人に振る舞ったら、半分以上残されたが、うまいのだ。

私は、今日もこれでもやしを炒めて腹を持たせる。
一人暮らしを生き抜くぞ。

文・挿絵:藤原麻里菜/イラスト:ざきよしちゃん

藤原麻里菜

藤原麻里菜
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。1993年7月20日生まれ。神奈川県出身。
2013年から、YouTubeチャンネル『無駄づくり』を開始し、無駄なものを作り続ける。
現在、チャンネル登録者数は5万人を超え、総再生回数は1000万回以上になり、テレビを始めとする様々なメディアに取り上げられている。
2015年夏には、東京都墨田区「あをば荘」にて初個展「無駄な部屋」を開催。2016年には、Google社が主催しているYouTubeNextUpに入賞する。また、アドテック東京2016にスピーカーとして登壇した。
また、ライターとしても活動しており、第三回オモコロ杯未来賞、週刊SPA!「今読むべきブログ21選」、おもしろ記事大賞佳作などの評価を受けている。でも、ガールズバーの面接に行ったら「帰れ」と言われた。

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